2012年6月18日月曜日

日本ガラス工芸協会展「ガラスの波紋」とガラス個展「寺沢彰紘硝子展」

つい先日、かなりの短期間に国立博物館と国立新美術館に行きましたが、まずその前に今回は先月に訪れたガラス展二つの記憶をとどめておこうと思います。



先月、5月の8日の日曜日に訪れたガラス展「ガラスの波紋」も、始めて訪れてから、もう数回目になります。旧知の作家以外の作家についても名前と作品の傾向にはいつしか馴染んできて年ごとの変化にも多少は気づくようになってきました。

全般的に言えることですぐに気づくことは、年を追うごとに作品が小振りになってきていることです。しかし、それが産出力や意欲の低下とかを意味するのではなく、本来の大きさ、あるべき大きさに落ち着いてきたのではないかと、筆者には思われます。言ってみれば形式と内容との一致度が高まってきているのでは? 平たく言って成熟して落ち着いてきているというのでは?という印象があります。

もともとガラス工芸にはあまり大きなものは似つかわしくはない面もあるのでは、とも思えます。特に精緻な加工を施す作品にとってはそれが言えるような。もちろんこれはそう画一的にとらえるべき問題ではないと思いますが。

そんなわけで、この展覧会も年々親しみやすいものになってきているような気がします。今流行の「かわいい」傾向の作品群も多くなってきているような感じもありますね。

「かわいい」とは何か、美学的にどういう意味を持つのか、というのは今ここで実に興味深い問題にも思えてきたましたが、今急にそんな詮索を始めてもどうにもなりません。理屈抜きで、今ここにある作品群はかわいいと同時に美しいし、かわいくはなく美しい作品、かわいさとは別の美しさを持つ作品と同様に価値があるし、個人的にもそういう可愛く楽しい作品は好きです。

今回、こういった各種の作品群を見て感じたことのつは、理屈抜きで、自分もこういうものを作りたいな、こういうものを作って生活できれば幸せだろうな、という実に単純素朴な感慨でした。現実に私は過去にもそう考え、ガラス工芸の学校に入った次第ですから。結果的にそうならなかったのにはもちろん自他それなりの理由があり、今からまた始めることにはならないでしょうが、それにも関わらず、そういうあこがれの気持ちは消えることは無いのですね。

(付記。今回、出展者の広沢さんと後藤さんにお会いすることができ、顧客にはならなかったにもかかわらず、同じガラス工芸学校に居合わせたよしみで、いろいろ有益なお話を伺うことができました。お二方ありがとうございました。)

ちなみに、後藤さんの作品はこの「硝子の波紋」展としては今回初めて拝見させていただきました。今回の全般的な傾向と同様に小振りでありますが、色を一切使っていない点で傾向として少数派であり、先に述べた「かわいさ」の要素は少ない作品群です。お話によるとドイツ製の無色板ガラスを材料にして軟化させて作成した一輪挿しに使えそうな造形作品ですが、用途、あるいは器としての形式を用いることは重視していないそうで、基本的に純粋造形作品、あるいはオブジェであるとのことです。

このドイツ製無色板ガラスは日本で普通に見られる板ガラスよりは遙かに着色が少ないようですが、純粋無垢で表面もなめらかなクリスタルガラスではなく、無色とは言ってもごくわずかに不純物、おそらく鉄に由来するごく薄いくすんだ緑色がついています。確かに、純度の高い完全無色透明のクリスタルガラスでは、純粋造形にも向いていないことはわかります。

確かに彫刻でも真っ白な石膏彫刻ではそのまま作品にはなりにくい。石、木、ブロンズ、と、素材の味わいが欠かせません。陶磁器その他、あらゆる工芸は、一定の天然の要素を残した材料を用いています。完全無色透明なクリスタルガラスを用いて後から色やテクスチャーを加えるガラス工芸はその点でユニーク、異色ともいわれますが、ガラスでも純粋造形作品あるいはオブジェを目指す場合にはやはりそれなりに適した産地といえるものがあることがわかるように思います。陶磁器の原料などに比べると遙かに純度が高く、産地との関係は少ないとはいえ、やはり産地との関わりが無視できないということが面白いですね。もちろん技術面での土地とのつながりもあります。


翌日の9日はこれも例年の寺澤さんの硝子展です。



こちらはガラス展ではなく硝子展です。
実際に使える器が主体となっている点は以前のとおりで、ガラス工芸協会などの主流とは多少離れていますが、このように実際に使える器は、陶磁器では依然として主流であるようですがこれはガラスと陶磁器の重要な違いと言えるように思います。

寺澤さんの行き方は陶磁器的感覚に近いと言えると言えますが、もちろんランプシェードのような陶磁器では作りにくいようなものもあります。最近はオブジェとは言わずオーナメントにも守備範囲を広げてこられたようです。

下の写真はちょうど筆者の今のニーズにぴったりだったので買い求めたペーパーウェイトです。この完全透明なクリスタルガラス中に浮かぶ青い色の破片は普通の室内、特に机の周辺ではあまり見ることのできない異質な色調で、ちょうどLED電球のスタンドで照らし出すと室内で青空を垣間見るような印象です。蛍光灯下ではこの青さは得られません。試してみましたが、直射日光で見る色調や昼間の散乱光で見る色調とも少し異なります。

このペーパーウェイトの青をきっかけにLED電球や蛍光灯の光についていろいろと考えさせられることがありました。いずれにせよ仕事机にこういう色調があるのは精神衛生に好ましいような気がします。ただし少なくとも筆者の場合、蛍光灯だけではそれほどの効果なしです。


途中で話が別の方向にそれてしまったようですが、そういえば当日も作者とLED電球について話題にしたことを思い出しました。ランプシェードにLED電球を使用することに関してです。ランプシェードといえばどうしても暖かみが求められるようで、作者はまだLEDの色に不満を持たれているようですが、少なくとも蛍光灯に比べて一段とガラス工芸にとって好ましい素材というか、アイテムが登場してきたようです。

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